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結論:法律・倫理だけは旧版の本では埋まりません
先に結論をお伝えします。
技術分野は多少古い参考書でも流用できます。
ただし法律・倫理は、2021年版に対応した本では範囲が足りません。
理由は単純です。この分野は説明が詳しくなったのではなく、分野の枠組みそのものが作り直されたからです。2021年版では法律・倫理の話は「AIと社会」という1つの大項目の中に散らばっていましたが、最新シラバスでは「AIに関する法律と契約」と「AI倫理・AIガバナンス」という2つの独立した分野になりました。
この記事は、JDLAが公開している2021年版シラバスと最新シラバス(G検定シラバス2024・第1.4版)のPDFを実際に突き合わせて、何がどう変わったのかを整理したものです。手持ちの参考書で足りるかどうかの判断材料にしてください。
「シラバス2024」は古くない──最新版は2026年5月付
まず、いちばん誤解されやすい点から。「シラバス2024」と聞くと2年前の情報のように感じますが、これが現行版です。
G検定のシラバスは毎年作り直されるものではなく、数年おきの大改訂と、その後の小さな改訂で維持されています。実際の履歴を見ると、こうなっています。
| 版 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| 1.0 | 2024年5月14日 | シラバス2024を新規作成(2024年11月のG検定2024#6から適用) |
| 1.1〜1.3 | 2024年9月〜 2025年5月 |
キーワードの追加・削除・表記の統一 |
| 1.4 | 2026年5月11日 | 現行版。ChatGPT・GPT-n が削除され、「破壊的忘却」は「破滅的忘却」に表記変更 |
つまり「シラバス2024」は看板の名前であって、中身は2026年5月に更新されているということです。参考書を選ぶときは「2024年改訂対応」「公式テキスト第3版」といった表記を目印にしてください。
💡 v1.4 で ChatGPT と GPT-n が消えた
直近の第1.4版で、自然言語処理の項目からChatGPT と GPT-n が削除されました。生成AIそのものが範囲外になったわけではなく、大規模言語モデル (LLM) や PaLM、RLHF といった語は残っています。個別サービス名から、技術の名前へと軸が移ったと読むのが自然です。
いちばん大きい変化は「分野が独立したこと」
キーワードの増減より先に、構造の違いを押さえてください。ここが分かると、旧版の本で何が足りないのかが一気に見えます。
| 2021年版 | 最新シラバス |
|---|---|
| 大項目「AIと社会」の中に混在 ・AIのビジネス活用と法・倫理 ・データの収集 ・実装・運用・評価 ・クライシス・マネジメント など |
独立した2分野に再編 ・AIに関する法律と契約(中項目7つ) ・AI倫理・AIガバナンス(中項目11個) |
2021年版では、たとえば「著作権法」はデータを集めるときの注意点として登場していました。法律そのものを体系立てて学ぶ形にはなっていません。最新シラバスでは「著作権法」という中項目が立ち、その下に守るべき語が並ぶ形に変わっています。
実際に数えると、法律・倫理の2分野には合計で84のキーワードが挙がっています。このうち2021年版にも同じ語があったのは20語ほどで、残りのおよそ4分の3は最新シラバスで新たに明示された語でした。
法律側:7つの中項目と、丸ごと増えた2つ
「AIに関する法律と契約」は7つの中項目で構成されています。赤字のNEWが、2021年版には中項目そのものが無かった枠です。
| 中項目 | 挙がっているキーワード |
|---|---|
| 1. 個人情報保護法 | 個人情報/個人データ/保有個人データ/要配慮個人情報/個人識別符号/仮名加工情報/匿名加工情報/第三者提供/委託/利用目的/GDPR |
| 2. 著作権法 | 著作権/著作物/創作性/著作権侵害/AI生成物/利用規約 |
| 3. 特許法 | 特許権/発明/発明者/職務発明/新規性/進歩性/知的財産権 |
| 4. 不正競争防止法 | 営業秘密/限定提供データ |
| 5. 独占禁止法 NEW | 競争制限/公正競争阻害性 |
| 6. AI開発委託契約 | 請負契約/準委任契約/NDA/精度保証/保守契約/PoC/AI・データの利用に関する契約ガイドライン |
| 7. AIサービス提供契約 NEW | SaaS/データ利用権/利用規約/精度保証 |
丸ごと増えた① 独占禁止法
データやAIモデルを持つ企業が市場で優位に立つとき、それが公正な競争を妨げていないかを見る観点です。キーワードは競争制限と公正競争阻害性の2語だけですが、後者は取り違えやすいところです。
公正競争阻害性は「実際に競争が制限された事実」までは求められません。妨げるおそれがあれば足ります。「実害が出てから」と覚えていると逆になります。
丸ごと増えた② AIサービス提供契約
2021年版は、AIを開発する側の契約(請負・準委任)までしか扱っていませんでした。最新シラバスでは、作ったAIを他社に使ってもらう段階が独立した中項目になっています。
- SaaS……買い切りではなく、ネット越しにサービスとして提供する形態。データが提供者側に置かれる点が論点です
- データ利用権……利用者が入力したデータを、提供者が学習に使ってよいのか
- 利用規約……著作権法上は許される利用でも、規約で禁じていれば契約違反になり得るという二層構造
個人情報保護法は「粒度」が変わった
個人情報保護法は2021年版にもありましたが、当時のキーワードは「個人情報」「GDPR」「匿名加工情報」など数語でした。最新シラバスでは11語が名指しで並んでいます。
取り違えやすいのが「委託は第三者提供に当たらない」という点です。外部に渡している以上は第三者提供に見えますが、自社の目的のために任せている場合は別枠で、代わりに委託先を監督する義務が生じます。
医療に関わる方であれば、病歴が要配慮個人情報に含まれることは日常業務の感覚として入っているはずです。この分野は現場の実感がそのまま得点につながります。生成AIに患者情報を入力してはいけない理由は、別記事で具体的に整理しています。
📗 用語を1語ずつ確認したい方へ
ここで挙げた語は、AIに関する法律と契約の用語解説に1語ずつまとめてあります。「一言でいうと」から読めるので、知らない語がどれだけあるかを数分で把握できます。
倫理側:11の中項目に再編された
「AI倫理・AIガバナンス」は11の中項目に整理されています。こちらもNEWが2021年版に枠の無かったものです。
| 中項目 | 挙がっているキーワード |
|---|---|
| 8. 国内外のガイドライン NEW | AI倫理/AIガバナンス/価値原則/ハードロー/ソフトロー/リスクベースアプローチ |
| 9. プライバシー | プライバシー・バイ・デザイン/カメラ画像利活用ガイドブック |
| 10. 公平性 NEW | 公平性の定義/センシティブ属性/代理変数/データの偏り/アルゴリズムバイアス/サンプリングバイアス |
| 11. 安全性とセキュリティ NEW | データ汚染/データ窃取/モデル汚染/モデル窃取/Adversarial Attack/セキュリティ・バイ・デザイン |
| 12. 悪用 | ディープフェイク/フェイクニュース |
| 13. 透明性 | 説明可能性/ブラックボックス/データの来歴 |
| 14. 民主主義 | フィルターバブル/エコーチェンバー/フェイクニュース |
| 15. 環境保護 NEW | 気候変動/モデル学習の電力消費 |
| 16. 労働政策 NEW | AIとの協働/スキルの喪失/労働力不足 |
| 17. その他の重要な価値 NEW | インクルージョン/軍事利用/死者への敬意/人間の自律性 |
| 18. AIガバナンス NEW | AIポリシー/AIに対する監査/倫理アセスメント/人間の関与/モニタリング/再現性/トレーサビリティ/ダイバーシティ |
公平性は「消せば済む」話ではない
10番の公平性で押さえたいのがセンシティブ属性と代理変数のセットです。
センシティブ属性は人種・性別・宗教・障害の有無など、差別につながりやすい属性のこと。代理変数はその属性そのものではないのに、実質的に同じ意味を持ってしまう変数です。居住地域から所得層が推定できてしまうのが典型例です。
この2語が並んでいることには意味があります。「センシティブ属性を入力から外せば公平になる」という直感が成り立たないことを、代理変数の存在が示しているからです。医療AIで言えば、郵便番号や通院距離が社会経済的な背景の代理変数になり得ます。
攻撃は「どこを・何を」の2軸で覚える
11番のセキュリティで並ぶ4語は似ていて混ざりやすいところです。どこに手を出されるのか(学習データか、モデルか)と、何をされるのか(壊されるのか、盗まれるのか)の2軸で整理すると混ざりません。
| 壊される(汚染) | 盗まれる(窃取) | |
|---|---|---|
| 学習データ | データ汚染 不正なデータを混ぜられる |
データ窃取 学習データを盗み出される |
| モデル | モデル汚染 本体や更新過程を改ざんされる |
モデル窃取 大量の質問からコピーを作られる |
ガバナンスは「実装」まで踏み込む
18番のAIガバナンスは、最新シラバスでもっとも性格が変わった部分です。理念を語るだけでなく、組織がどう回すかまで含まれるようになりました。AIポリシーを定め、AIに対する監査と倫理アセスメントを行い、人間の関与を確保し、運用後もモニタリングを続け、再現性とトレーサビリティを担保する——という一連の流れです。
合わせて8番のハードローとソフトローの区別も押さえてください。ハードローは法的拘束力と罰則を伴うもの、ソフトローは拘束力はないが遵守が期待されるガイドラインや行動規範です。リスクベースアプローチ——危険が大きい使い方ほど厳しく規制する考え方——も同じ枠にあります。
倫理側の用語はAI倫理・AIガバナンスの用語解説にまとめてあります。似た語が多い分野なので、対比しながら読むのが近道です。
逆に、消えたキーワードもある
見落とされがちですが、最新シラバスで姿を消した語もあります。旧版の本で真面目に勉強すると、いまは範囲外の語に時間を使うことになります。
2021年版にあって最新シラバスから消えた、法律・倫理まわりの語を挙げます。
| 消えた語 | 2021年版での位置づけ |
|---|---|
| ELSI/FAT | データの加工・分析・学習 |
| データベースの著作物/秘密管理/十分性制定 | 実装・運用・評価 |
| コーポレートガバナンス/内部統制の更新 | クライシス・マネジメント |
| 透明性レポート/実施状況の公開/Partnership on AI | クライシス・マネジメント |
| シリアス・ゲーム/炎上対策 | クライシス・マネジメント |
特にクライシス・マネジメントという中項目が丸ごと無くなっている点は大きい変化です。危機管理の話が消え、代わりに平時のガバナンス(監査・アセスメント・モニタリング)に軸が移ったと読めます。
数理・統計も「統計検定3級程度」から名指しへ
法律・倫理からは少し離れますが、同じ「粒度が変わった」現象がもう1か所あります。数理・統計です。
2021年版の記述は、学習項目・キーワードとも「統計検定3級程度の基礎的な知識」「統計検定3級程度の基礎的キーワードと計算問題」という一文だけでした。範囲が曖昧で、どこまでやればよいか判断しにくい状態です。
最新シラバスでは、平均・中央値・分散・標準偏差といった基本から、条件付き確率・最尤法・正規分布・ポアソン分布・ベルヌーイ分布、さらにマハラノビス距離やユークリッド距離まで用語が名指しで並んでいます。
やることが増えたというより、やるべき範囲がはっきりしたと捉えるほうが正確です。名前が挙がっているほうが、対策はしやすくなります。
では、どう埋めるか
手順は3つです。
Step 1 手持ちの本がどの版に対応しているか確認する
奥付や帯で「2024年改訂対応」「第3版」といった表記を探してください。2021年版対応の本しか持っていない場合、技術分野は使えますが法律・倫理は別途補う必要があります。参考書の選び方はG検定の参考書レビューにまとめています。
Step 2 中項目の一覧を見て、知らない語だけを抜き出す
この記事の表をそのままチェックリストとして使ってください。18の中項目のうち、どこに知らない語が固まっているかが分かれば、あとはそこだけ潰せば済みます。当サイトでは最新シラバスの全用語を1語ずつ解説ページにしているので、引っかかった語だけ開けば十分です。
Step 3 法律・倫理は直前に回す
この分野は暗記で積み上がる性質があります。技術分野のように理解の積み重ねを必要としないため、直前期に集中させるほうが記憶が持ちます。学習全体の時間配分はG検定の勉強時間の記事を参考にしてください。
最新シラバスの全用語を1語ずつ解説しています
技術分野から法律・倫理まで、8分野・全497用語を個別ページで解説。「一言でいうと」「よくある誤りの選択肢」まで載せているので、知らない語を狙って潰せます。「覚えた」チェックで進み具合も残ります。
まとめ
要点を振り返ります。
- 「シラバス2024」は現行版。第1.4版は2026年5月11日付で、いまも更新されている
- いちばんの変化は法律・倫理が独立した2分野に再編されたこと(法律7中項目・倫理11中項目)
- 法律側は独占禁止法とAIサービス提供契約が丸ごと追加。個人情報保護法まわりも用語が名指しに
- 倫理側は公平性・安全性とセキュリティ・環境保護・労働政策・AIガバナンスなどの枠が新設
- 法律・倫理の全84語のうち、2021年版にも同じ語があったのは20語ほど
- 消えた語もある(ELSI・FAT・Partnership on AI・シリアス・ゲームなど)。旧版の本で範囲外を勉強しないよう注意
- 数理・統計も「統計検定3級程度」から用語の名指しへ
法律・倫理は、技術分野と違って前提知識がなくても短期間で積み上がる分野です。範囲が広がったと聞くと身構えますが、裏を返せばやれば確実に取れる場所が増えたということでもあります。
学習全体の進め方はG検定合格へのロードマップ、分野別の用語解説は試験内容の解説ページにまとめています。
📚 補足(2026年8月10日時点)
※本記事は、日本ディープラーニング協会(JDLA)が公開している「G検定シラバス2024」第1.4版(2026年5月11日)および「G検定シラバス2021(2021年7月9日)」のPDFを突き合わせて独自に整理したものです。語数は表記ゆれを含む概算で、実際の出題内容を示すものではなく、また合格を保証するものでもありません。最新の出題範囲は必ずJDLA公式サイトでご確認ください。2026年第5回は9月5日(土・オンライン/会場は9月4日〜6日)、申込は8月28日まで。第6回は11月6日・7日の開催予定です。