アクセラレータ

0.章の概要

アクセラレータは、特定の計算タスクを効率化するためのハードウェアデバイスです。CPUが汎用的な計算処理を行うのに対し、アクセラレータは特定の用途(行列演算、ベクトル計算など)に特化しています。
主な特徴として、以下が挙げられます:

  • 計算効率の向上: 並列処理を活用して、従来の計算時間を大幅に短縮。
  • 消費電力の削減: 特化設計により、無駄な処理を省き低電力化。
  • AI分野での活用: ディープラーニングの学習や推論の高速化において、重要な役割(開発にブーストをかけた技術の1つです)。

1. デバイスによる高速化

学習キーワード: 単一命令列複数データ (SIMD; Single Instruction Multiple Data)、単一命令複数スレッド (SIMT; Single Instruction Multiple Thread)、複数命令列複数データ (MIMD; Multiple Instruction Multiple Data)、GPU (Graphics Processing Unit)、TPU (Tensor Processing Unit)

概要

デバイスによる高速化について、SIMDSIMTMIMDGPUなどの技術を取り上げていきます。これらの技術は、計算処理を高速化するために使用され、AIやディープラーニングの分野でとても重要な役割になっています。


単一命令列複数データ (SIMD; Single Instruction Multiple Data)

SIMDは、1つの命令を複数のデータに対して同時に実行する並列プログラミングモデルで、GPUに適用されています。データが独立しており、同じ計算を繰り返し適用するタスクに向いています。

simd

単一命令複数スレッド (SIMT; Single Instruction Multiple Thread)

SIMTは、1つの命令を複数のスレッドに分散して実行する並列プログラミングモデルで、GPUに適用されています。(スレッドとは、並列に実行される計算の最小単位です。)

主なメリットとして、スレッド単位でデータ処理を行うため柔軟性が高いという特徴があります。

※SIMDと似ていますが、SIMTは 「多数のスレッドが同じ命令を共有しつつも、独立した動作も可能」という違いがあります。混在せずに理解しましょう。


複数命令列複数データ (MIMD; Multiple Instruction Multiple Data)

MIMDは、複数の異なる命令を、複数のデータに対して処理する並列プログラミングモデルで、CPUに適用されています。MIMDは、柔軟性が高く、各プロセッサが独立して動作します。

mimd

GPU (Graphics Processing Unit)

GPUは、大量の並列計算を得意とするプロセッサです。元々はグラフィックス処理用に設計されましたが、ニューラルネットワークのパラメータ調整時に行う「行列演算」が、グラフィックス処理と似ているため、現在ではディープラーニングの学習や推論にも活用されています。

構造としては、数千のコア(単体では比較的低性能)を持ち、簡単で大規模な並列データ処理が実現しています。一方、CPUは複雑で連続的なデータ処理を得意としています。

CUDA(Compute Unified Device Architecture)

CUDAは、NVIDIAが開発したGPU向けの並列コンピューティングプラットフォームおよびプログラミングモデルです。CUDAを使用することで、GPUの計算能力を最大限に引き出し、高速なデータ処理が可能になります。

深層学習用に提供されていますので、AIモデル開発で使いやすというメリットがあります。


TPU (Tensor Processing Unit)

TPUは、Googleが開発したGPGPU(※関連用語で説明)で、GPUと比較して数十倍高速に処理可能で、エネルギー効率が高いとされています。Pythonの深層学習ライブラリである、Tensorflow向けに最適化されています。

TPUは、量子化技術(※量子化の解説はこちらから)を用いて、16bitや8bitの演算器を使用しています。また、「シストリックアレイ」という演算結果を演算回路内で直接渡す構造で、メモリを大幅に減らし、低消費電力化を実現ことができています。(※「シストリック (Systolic)」という名称は、心臓の動き(収縮と拡張)に例えられ、データがリズミカルに流れる様子を表しているそうです。)


関連用語の補足
  • 並列処理: 複数の計算を同時に実行する技術。
  • 行列演算: データを行列形式で表現し、加減乗除などを行う操作。
  • スレッド: 並列計算の最小単位。独立して動作可能。
  • GPGPU: 一般的な目的(グラフィック)に使用されるGPUを、汎用的な計算に使用する技術。
  • FPGA: FPGA (Field-Programmable Gate Array)は、構成を自由に変更できる集積回路(IC)のこと。プログラムに応じてハードウェアの動作を再構成できるため、特定のタスクに特化した処理を効率的に実現可能。

キーワードまとめ

単一命令列複数データ (SIMD; Single Instruction Multiple Data)、単一命令複数スレッド (SIMT; Single Instruction Multiple Thread)、複数命令列複数データ (MIMD; Multiple Instruction Multiple Data)、GPU (Graphics Processing Unit)、TPU (Tensor Processing Unit)